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最高裁判所第二小法廷 平成10年(行ツ)105号 判決 1998年8月31日

千葉県長生郡白子町八斗一〇五一番地一

上告人

株式会社シラコ

右代表者代表取締役

安川昭博

右訴訟代理人弁護士

西林経博

同 弁理士

石戸元

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 伊佐山建志

右当事者間の東京高等裁判所平成九年(行ケ)第七八号審決取消請求事件について、同裁判所が平成九年一二月二四日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人西林経博、同石戸元の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に立って原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 根岸重治 裁判官 福田博)

(平成一〇年(行ツ)第一〇五号 上告人 株式会社シラコ)

上告代理人西林経博、同石戸元の上告理由

原判決は、憲法第二九条第一項が「財産権は、これを侵してはならない。」と規定しているのに拘らず、上告人の財産権を不当に奮うもので憲法違反である。即ち、原判決は、原告の「先願考案に慣用技術を適用して設計変更することを前提にして本願考案との同一性を認めることは違法である」との主張に対して、「出願時に当業者にとっての慣用技術を考慮して明細書の開示事項を検討し、考案の同一性を判断するのは当然のことである。」と述べているが、これは甲第七号証と平成九年一〇月六日付準備書面の「実用新案法第三条の二第一項の規定によるときは、この同一とは極めて厳格に解釈すべきものである。」で述べたように違法な判断である。

即ち、昭和三四年法においては、先願の出願公告がなされるまでに出願がなされた後願はその特許請求の範囲に記載されている発明を先願の特許請求の範囲に記載された発明と比較し、発明の同一性がない限り、後願を理由として拒絶されることはなかった。実用新案法においても同様である。それは先願競争に負けたという気の毒な事情があるからである。添付米国特許法第一〇二条b、d(甲第八号証)に示すように、アメリカでは先後願関係にあるときはその出願日の差が一年以上ないときは特許を受ける権利は喪失しないとされている。日本の特許法では同一のときは先願のみが権利を受けることとされているが、それでも同一性の解釈をできるだけ厳密に解釈することにより救済している。昭和四五年法はこれを改正し、実用新案登録請求の範囲のみならず、明細書及び図面に拡張されたが、それでも上記気の毒な事情は変わらず、上記の原則が変わった訳ではない。平成九年七月三〇日付の準備書面で述べたように「先願関係にあるものは、その先願が出願前公知ではなく、このような場合、法律は実用新案法第三条の二第一項の規定によるものとし、その先願の明細書と図面に記載されたものと同一であるときのみ登録を受けることができないものとしたものである。従って、この同一とは極めて厳格に解釈すべきもので、実用新案法第三条の第二項の出願前公知の考案に基づいて極めて安易に考案することができる場合とは区別して考慮すべきである。」このことは当時特許業界では常識であった。

然るに、特許庁の審査は拒絶の根拠を拡げるために実用新案法第三条の第二項の「容易に考案できる」と実用新案法第三条の二第一項の「同一」判断を混同しているのが実情で、これは明らかに誤った法解釈である。

判決は、原告の「本願考案では縦鉄筋が突出せず、取扱い安全であり、また、コンクリートのかぶり厚を大きくとれるという顕著な作用効果がある」との主張に対し、「先願考案においても、その縦鉄筋の上部を上端横鉄筋に溶接するという慣用技術を適用することにより、原告が主張する作用効果を奏するであろうことは前示の認定に照らして明らかである」と述べているが、これは前示の認定のように明らかな事項でない。即ち、原告が主張する作用効果を奏することは甲第三乃至五号証には全く記載されてなく新しいことで、これを明らかであるとした判決は根拠なく勝手に断定したものである。以上のように、この判決は法律の解釈を誤っているから違法性があり、証拠に基づかない独断的な判断があるから取り消されるべきものである。

先日(平成九年一〇月六日)東海大学で特許庁長官の講演を拝聴したが、その中で、日本の企業は特許を防衛的なものと考えているのに対し、アメリカの企業は特許を市場独占的なものと考えているとの話があった。これは企業の責任というよりはむしろ特許庁の審査態度、及び司法当局の特許権に対する態度の結果である。即ち、特許庁の審査は他人に迷惑をかけるような権利はいけないとし、権利範囲に狭くするように圧力をかけたり、それに応じないときは不明確であるとして拒絶したりする。また司法当局は大体大企業側に有利に、特許権者側に不利にの原則で判断している。これは大企業の『特許のトラブルを避けたい』との意向に叶うものであるが、反面個人や小企業の利益は無視され、ベンチユアーの育たない原因となっている。

従って、日本ではノーベル賞級の学者、東北大の西沢先生の大発明『磁気記録装置の交流バイアス法』の特許出願を最後まで許可しなかったりし、またアメリカのようにコダックがポラロイドに敗訴することは考えられない。また日本ではビル・ゲイツのような個人の成功はない。

即ち、日本では、アメリカでは一九三〇-一九七〇年度で終わったアンチバテント時代が未だ続いている。これは、日本の常識は世界の非常識の顕著な例である。そして、日本のように特許生悪説に立ち、何でも拒絶するように判断することは特許法の無視につながり、世界に不公正な印象を与え、またパリ条約、WIPOの違反に近く、貿易摩擦の原因となる。また、この結果、日本ではベンチユアー企業は育たず、基礎研究でアメリカに大きく立ち遅れ、大きなロイヤルティの支払の原因となり、また経済の閉塞の原因となっている。

なお、特許庁長官はこのような現状を改善し、日本もプロパテント(特許保護)の時代にすべきであるとのこ意向のようで、この炯眼には敬服する次第である。

以上により、原判決は憲法違反は明らかであり、直ちに破棄差戻し又は自判されるべきである。

以上

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